マールを殺した。彼は疲れた顔をして、そう言った。
ボウガンの手入れをしている彼の顔色を窺うように覗きこむけれど、彼はいつもと変わらない表情で、なんだよ、と僕を睨んだ。
彼の美しい瞳は乾いていた。どうして、と僕は思う。
以前僕らがこぞってマールを見殺しにしたのだと告げた時、彼は理不尽だと言って暴れ、その美しい瞳を濡らしたのに。
唯一の家族であり、ずっと自分を守ってくれた兄であった彼を失ったというダリルは、どうしようもなく冷たい目をしていた。
「…どうして」
そんな目をしているの。僕は悲しくて最後まで言葉に出来なかった。それでもはじめの言葉だけは小さく洩れて、それにダリルが口端を上げた。まるでそれは嘲りのような仕草だった。
違うんだ、そうじゃない。お願いだから、ダリル、そんな顔をしないで。
「最初にマールを殺そうとしたのはお前らだろ。清々したんじゃないのか?」
そうだよ。だから君は何かにつけてマールの話をするんじゃないか。まるで僕らの罪を暴くように、忘却など許さないと責め立てる。
僕らが彼を殺そうとしたのは事実だし、ダリルは彼の弟なのだから僕らを責めるべきだ。だから僕にはわからない。どうして君が泣かないのか。
「……ダリル」
「うるせぇな。いいか、小僧。俺は別にお前に慰めてもらうために言ってるんじゃねぇ。何かあったとき、マールが死んだってことを知ってる奴がいた方がいいと思ったからだ。それだけだ」
ダリルはボウガンを机に置き、僕の胸倉を掴むと乱暴な口調で僕に言った。
ダリルに無理矢理引き寄せられたせいで、拍子に涙が零れてしまった。ぽろりと落ちた雫に、ダリルはとても嫌そうに眉を顰める。
「なんでお前が泣くんだよ。お前、マールのこと嫌いだったくせに」
「うるさいな!別にマールの為に泣いてるわけじゃない」
僕は涙を拭った。そうだ、マールみたいな嫌な奴の為に泣くわけないじゃないか。あいつは根っからの人種差別主義者だ。
きっとこの涙は君のなんだ。君が泣かないからだ。泣き虫ダリル、君のがうつっちゃっただけなんだよ。
僕は何も言えなくて、俯いたまま嗚咽を殺す。ダリルはそれきり何も喋らなかったけど、僕が泣きやむまでずっと側にいてくれた。
(僕らの瞳は全然違う色だけど、零した涙の色は一緒だったと僕は思う)
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