玄関の扉を開けてすぐ、粗雑そうな男の声がしたものだからショーンは鞄を放り出し、慌ててリビングへ駆け込んだ。ショーンには一緒に住んでいる恋人がいて、いつの間にか上がりこんでしまった暴漢に襲われているのではないかと思ったのだ。
ショーンの恋人はとてもとても可愛らしいから、ショーンはリビングへとび込むまでの数秒間気が気ではなかった。
「ノーマ…!」
「あ、おかえり、ショーン」
ところがショーンの恋人はリビングのソファに優雅に座り、ドーナツなぞを貪っていた。
ショーンはノーマンを見て固まってしまった。ソファにけろっとした顔で座っている実物のほうでなく、この間買い換えたばかりの薄型テレビに映っているノーマンの方だ。
画面に映っているノーマンは、男性器を頬張るのに夢中だった。
「なに、見てるんだ」
「僕の新作ビデオ。ショーンも見る?」
ローテーブルにはAVメーカーの名前がしっかり記載されたDVDパッケージが置かれていた。ノーマンの所属している事務所のものだった。
ノーマンは多くのシリーズに名を連ねる売れっ子のAV男優だ。ショーンがちらりと見たパッケージにも、ついにあのシリーズが、等と書いてあるのでこれもその一つだろう。
生憎ショーンは恋人が出演しているアダルトビデオを一緒に観賞する趣味など持ち合わせていなかったので、適当に断って玄関に投げ捨てた鞄を取りに戻った。
画面のノーマンはおねだりタイムに突入したところだった。
一通りAV観賞を終えたノーマンと夕食を食べたショーンは、ソファに座ってテレビを見ていた。夕食前までAVが流れていた画面に、今は仏頂面をしたニュースキャスターが映っている。
ノーマンはニュースになど興味がなく、ショーンがテレビを見始めるとバスルームに引っ込んでいったが、もうそろそろ出てくる時間だった。恐らく冷蔵庫に買い置きしてある、ストロベリーのアイスクリームを持ってショーンの横へ座るだろう。
キャスターが番組の終わりを告げ、おやすみなさい、と頭を下げた。ショーンはリモコンを取ろうとローテーブルに手を伸ばし、放置されているDVDに気付く。パッケージには魅力的なノーマンが印刷されていて、成程これは売れるはずだな、とショーンは思った。
「ショーン、お風呂空いたよ」
DVDパッケージをしげしげと眺めていると、ノーマンが髪を乾かさないままリビングへ戻ってくる。手には案の定アイスクリームが握られていた。
自分の横へ当然のように座ったノーマンの首にかけられたタオルを取って、ショーンはノーマンの髪を丁寧に拭く。恋人の世話を焼くのがショーンはとても好きだった。ノーマン限定で。
「やっぱり見たかったの?」
「何が?」
「ビデオだよ。パッケージ眺めてたじゃないか」
ショーンは髪を拭きながら、ノーマンはアイスクリームを食べながら、同じAVのパッケージを見つめた。
確かにセックスをしているノーマンはとても可愛い。けれどすぐ隣に彼がいるのに、別の男とセックスしている彼を見る必要性を感じなかった。そんなことをするより、隣の彼に実際に触れて虐めて啼かせてやるほうが健全だ。だからショーンは、やっぱりノーマン出演のAVを見ようとは思わなかった。
「いや、いいパッケージだと思って」
「何それ。変なの」
ノーマンはアイスクリームのカップをローテーブルに置く。中身はすでになくなっていた。
甘いものが好きなせいか、ノーマンはとてもいい匂いがする。本人はまったく知らないでいるようだが、ショーンはいつもノーマンの匂いに誘われているような気がしてならなかった。
ショーンはノーマンから漂ってくる匂いに我慢できず、彼の唇を塞ぐ。ノーマンの唇は甘くて、ショーンの脳髄まで溶かしてしまいそうだった。
唇が離れるとノーマンの可愛らしい声が微かに零れて、お互いの吐息が混じるのを感じた。
「ショーン、いま君が考えてること当ててあげようか」
「うん?」
「きっと君は、このAVでやってたこと全部僕にしたいなって思ってる。そうでしょ?違う?」
「………。大体合ってるな」
頷くショーンに、やっぱりね!と言ってノーマンは笑う。
ショーンがセックスをしたいと思ってるのは事実だが、それ以上にノーマンがセックスをしたがっているのは明白だった。
指摘はしない。どちらがよりセックスをしたがっているというのは二人にとって問題ではなかった。始めてしまえばどちらも同じくらい溺れるのだから。
「じゃあノーマン、そのAVの内容を実地で教えてくれよ」
「いいよ。じゃあバイブ買って来なくちゃ」
「は?」
ノーマンはするりとショーンの首に腕を回すと、熱を孕んだ声色でショーンの耳へ囁いた。
ピンクの可愛いやつ、と。
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