ショーンが買ってきたドーナツを右手に持ったまま黙りこんでしまったノーマンを見て、また何か考えてるな、とショーンは思った。
ノーマンの思考というやつは、ショーンからすれば概ねにおいて唐突だ。思考そのものはきっとノーマンの中で順を追ってなされているはずなのだが、彼はその過程を説明することなく、経過、あるいは結果からいきなり話し出す。
だから、黙りこんだノーマンが次に口を開いた時の言葉が、僕ドーナツになりたい、だったとしてもショーンは然程驚かなかった。
「そうしたら僕、君に食べてもらうんだ」
ノーマンは甘いものが好きだから、シロップや生クリームがのったものを好んで食べる。故に今ノーマンが右手に持っているそれは、ショーンが自分用に買ったものではなくて、ノーマンのためだけにわざわざ人気店に並んで買ったものだった。
ノーマンが言うように、彼がドーナツになってしまったら、きっと彼のために買ったドーナツのように甘いのだろうな、とショーンは笑った。たとえばノーマンの右手にあるドーナツのような。
ノーマンの右手にある、チョコレートのかかったドーナツはとても美味しそうだった。
「ショーケースの中で僕はずっとショーンに買われるのを待ってるから、ショーンはちゃんと僕を見つけてくれないと駄目だよ。じゃなきゃ僕ほかの人に買われちゃう。売れ残るかも」
ノーマンはそう言ってドーナツを齧った。
ドーナツになったノーマンがショーケースの中から自分を呼んでいるところをショーンは想像する。
可笑しなことにショーンは、たとえノーマンがドーナツになったとしても彼を見つけられるような気がしていた。同じ種類のドーナツがぎっしり詰まったショーケースの中だろうと、売れ残った最後のひとつだろうと、あぁこれはノーマンだ、お待たせ、などと言って自分は彼を買って帰るのだと。
「お前がいなくなったら俺はドーナツ屋を片っ端から覗いていかなきゃいけないな。とびきり甘そうなドーナツを探さないと」
「君はそれほど甘いものが好きじゃないけど、僕のことは好きだからきっと美味しく食べられるよ」
「どうかな。食べるのが勿体なくて飾っておくかもしれないぞ」
「ドーナツを?」
「お前を」
ショーンがノーマンのくちびるにキスすると、チョコレートの味がした。
文字通り甘いキスの余韻を楽しむようにショーンが唇を舐めると、今の仕草すごくセクシーだ、とノーマンが笑う。
チョコレートはとても甘かったのだけれど、それ以上にノーマンの笑顔は甘く、ショーンの胸を高鳴らせるには十分だった。ノーマンの笑顔はどんなお菓子よりも甘いと表現しても差し支えないほど、ショーンはノーマンを可愛いと思っていた。ノーマンは一般的にかっこいいと称される部類に入る成人男性なのだが、とにかく、ショーンにとっては、そういうことなのだ。
「うーん…飾られて君に見られるのは悪くないけど、やっぱり君は僕を食べるべきだよ。そうすれば僕はショーンとずっと一緒にいられるわけだし」
「そりゃ魅力的だ。でもやっぱり俺としては、こうやってお前を味見してたいよ。食ったらおしまいだろ?」
ショーンがもう一度キスをする。
ノーマンは少し考えて、食べかけのドーナツを皿の上へ置くとほんのちょっと身を乗り出した。
「味見だけ?」
「そうだな、つまみ食いもしておこう」
そうこなくっちゃ!ノーマンは機嫌よく立ち上がって、ショーンと一緒に寝室へ向かう。
ショーンが買ってきたドーナツは甘くて、とてもノーマンの好みだったのだけれど、ノーマンはやっぱりショーンに食べられるほうが好きだったのだ。
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