スーパーナチュラルの小話を雑誌に掲載したいと電話がかかってきたのは、チャックがちょうど“登場人物”からの電話を切った後だった。
連載でもなく、単にオカルト雑誌で特集を組みたいという話で、特別断る理由もなかった彼は承諾した。作品が有名になれば印税も入るし、あまりメジャーでない作家としては嬉しい限りだったので、チャンスは掴むべきだと思った。
そうして、チャックはその雑誌に掲載する為のノンフィクションホラーを書いた。彼の作品にはいつだって「これはフィクションです」という文字が印刷されるのだけれど。
レディバグ
「チャック!あなたって天才よ!」
「あ、ありがとう、ベッキー。どうかしたのかい?」
「雑誌に掲載されてたスーパーナチュラル読んだわ!素晴らしかった!あぁ、どうしてあの二人は―――」
電話に出るなり叫び倒すほどの音量で喋り続ける女の子に、チャックは少々うんざりした。彼女は自分の作品の熱狂的なファンで、チャックが黙っても延々雑誌の感想を話し続けている。
彼女は同性での恋愛を推奨しているのか、特にスーパーナチュラルの登場人物にそういった趣向があるという想像をすることが好きらしい。今回雑誌に掲載した話は、いつものように幽霊や化け物を相手にするようなものじゃなく、ただ兄弟の平穏な日常を描いたものだったので、彼女はそれでえらく興奮しているようだ。
兄弟がすごくいい雰囲気で、と早口に告げる彼女に適当な理由をでっちあげてチャックは電話を切った。受話器を置く前に、感想をありがとう、ときちんと礼を述べたあたり、チャックの人の良さがわかる。
「………ディーンとサムが気付きませんように」
チャックは祈るように呟いて、机の上に置いてある雑誌を手にとった。出版社が初刷りを一部くれたのだ。ぺらぺらとページを捲って、スーパーナチュラルの載ったところを開く。
大した話ではない。ごく稀にあるオフの日の兄弟を描いただけだ。けれど、ただでさえスーパーナチュラルに良い顔をしない“登場人物”が見れば、きっとすぐに電話で自分に怒鳴り散らすだろうとチャックは予測している。
それでもチャックがこの話を書こうと思ったのは、本編ではいつも辛く悲しい思いばかりをさせている“登場人物”たちが、決して不幸な存在ではないと知ってもらいたかったからだ。
チャックは文字をなぞる。自分の書いた文章を目で追い、頭の中では随分前に見た夢を鮮明に思い出していた。
「ディーン、見て、レディバグ」
「うわっ!そいつ何かすげーくさいニオイ出すだろ、近づくなよ」
「擬死のこと?そればディーンが苛めるからだろ。何もしないと平気だよ」
サムは呆れ顔だった。もっとグロテスクな生き物を狩ってるというのに、小さくて可愛らしい昆虫が「臭い」というだけで一歩下がるのだから、サムが呆れるのも当然だった。
しかしサムが平気だと促すと、ディーンは少しだけ嫌そうな顔をしながらも、それをまじまじと眺めた。
毛嫌いされる昆虫の中でも、レディバグはあまり嫌われることはない。小さくて丸い形はとても愛らしいからだろう。ディーンもその形状に絆されたのか、それ以上は何も言わなかった。
「レディバグのレディはね、マリアのことを指してるんだ。ほら、黒の斑点が7つあるだろ?マリアの七つの悲しみを背負ってるって意味なんだよ」
「お前ほんっとにオタクだな。気持ち悪ィ」
おえー、とジェスチャーするディーンを見てサムは笑う。
マリアどころか、神も天使も当てにはならないことを知っている兄弟は二人して笑った。
けれど二人は、サムのてのひらを這う小さな存在が、唯一の家族の悲しみを背負って飛び立ってくれればいいのに、とお互いに願っていた。
文章の終わりまで眺めたチャックは、溜息をついて雑誌を閉じた。
彼らはとても優しくて、いつだって兄は弟を、弟は兄を守る為に必死だ。レディバグに、あんな小さな虫一匹に願うほどに、彼らは家族を愛している。
そのことがチャックはとても辛かったけれど、チャックの夢の中に出てきた兄弟はいつだって、それでも幸せだ、と胸を張っている。
だからチャックは、スーパーナチュラルの読者に語った。物語の一番最後に兄弟の言葉を記した。
『兄弟は、決して不幸ではなかった。』
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